研究の概要

欧州グリーン水素インフラの整備は、化石燃料依存からの脱却と脱炭素化の二重目標を担う重要プロジェクトである。しかし、水素の輸入サプライチェーンは地政学的・技術的な供給途絶リスクを内包しており、これを無視した計画は化石燃料時代の脆弱性を再現する恐れがある。

本研究では、確率論的最適化モデルを用いてEUの水素輸入インフラ整備シナリオを分析し、供給途絶リスクを考慮した計画と考慮しない計画の厚生損失を定量化している。Potsdam Institute for Climate Impact Research(PIK)・BTU Cottbus-Senfenberg他の研究グループによる共同研究で、41ページの詳細な分析を含む。

主な発見・成果

リスクを考慮しない計画と比較して、リスク考慮型計画は厚生損失を12%(約240億ユーロ≒約3.8兆円)削減できることが定量的に示された。特に有効な対策として「多様化(複数輸入ルートへの分散)」と「戦略的過剰投資(容量余剰の確保)」の2つが同定された。

この結果から、EU域内輸送ネットワークの拡充、パイプラインオプションの多様化、船舶ターミナルの追加整備が不可欠であることも明らかになった。単一輸入元への依存や最小コスト最適化だけを追求したインフラ設計は、供給途絶時に甚大な経済損失を招くリスクがある。

実務への応用

日本企業が水素調達契約や水素インフラへの投資を検討する際、「単一調達先への依存を避ける多様化戦略」の定量的根拠として本研究の枠組みが活用できる。サプライヤーの地政学的リスク評価・契約期間の設計・バックアップ輸送ルートの確保など、実務的な意思決定に直接適用可能なフレームワークを提供している。JOGMEC・NEDOの政策ガイドライン策定や、民間企業の水素調達戦略立案における参照文献として位置づけられる。