概要
SBTi(Science Based Targets initiative)は2026年6月11日、Corporate Net-Zero Standard Version 2.0を正式リリースした。「これまでで最も包括的な企業気候行動フレームワーク」と位置づけられるV2.0は、目標設定から実際の実装まで、Scope 1〜3にまたがる統合的な手順を定めている。本記事では、全体フレームワークの構造と企業規模別の実装要件を解説する。
実装ステップ
Step 1:自社の企業区分を確認する
V2.0では企業の規模と所在地(高所得国・低所得国)によって要件が異なる:
- 大規模企業(高所得国):最も厳格な要件が全て必須
- 中小企業(SME):一部要件が任意化(特にScope 3)
- 新興国企業:特定の要件が任意扱いとなる柔軟性あり
SME区分については、SBTi公式ウェブサイトの定義基準(従業員数・売上高)を確認すること。
Step 2:Scope 1の目標を設定する
すべての企業でScope 1排出量の100%カバーが必要。以下の3種類から選択:
- 絶対量削減:基準年比で一定割合の排出量削減(例:2030年までに50%削減)
- 強度削減:売上・生産量あたりの排出量強度を削減
- 資産移行戦略:化石燃料設備の段階的廃止・電動化計画
業種によって推奨アプローチが異なる(セクターパスウェイ参照。2026〜2027年順次更新予定)。
Step 3:Scope 2の目標を設定する(Scope 2記事参照)
Scope 2(電力由来)は別途独立した目標が必要。詳細はSBTi V2.0 Scope 2実装ガイド記事を参照。
Step 4:Scope 3の評価と目標設定
- 大規模企業:Scope 3排出量の算定・目標設定が必須
- 中小企業・新興国企業:任意(ただし推奨)
- Scope 3カテゴリの優先順位付けには、GHGプロトコルScope 3算定ガイダンスを使用
- バリューチェーン全体での排出量把握が前提
Step 5:取締役会承認と移行計画の策定
V2.0の新たな必須要件:
- 取締役会承認:SBTi目標および移行計画を取締役会が正式承認
- 移行計画(Transition Plan)の策定:具体的な実施戦略・投資計画・マイルストーンを含む
- 気候目標を事業意思決定プロセスに組み込む:投資判断・R&D・調達方針等
Step 6:実装ヒエラルキーの適用
V2.0が定める行動優先順位(最優先から順に):
- 直接行動(省エネ、化石燃料代替、オンサイト再エネ)
- 活動プール(共有インフラ・グリッドの改善への貢献)
- セクター介入(業界単位の構造的変革)
- 残余排出の除去(長期的カーボン除去)
Step 7:2035年以降のOER(継続排出責任)に備える
大規模企業は2035年から、継続して排出する排出量の一定割合をカーボン除去(除去クレジット・技術的除去等)で対処することが求められる。この割合はネットゼロ目標年に向かって漸増する。
使うツール・標準
- GHGプロトコル:Scope 1/2/3算定の基盤標準
- SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0:本体ドキュメント(公式サイトからダウンロード)
- SBTiセクターパスウェイ:業種別の削減軌道(順次更新中)
- CDP気候変動質問書:SBTi目標のスコアカード連携に活用
- ISO 14064-1:Scope 1〜3の組織GHG算定標準
成功のポイント
- 「目標設定」から「実装」へのシフトがV2.0の核心メッセージ。移行計画の具体性(年度別マイルストーン、投資額)が問われる
- 「best efforts(最善努力)」条項が新設され、実装上の障壁を透明に報告することが許容された。完璧な実行より正直な開示を優先
- SBTiは「認定企業の90%がビジネスへのポジティブな影響を報告」と公表。投資家・顧客の信頼強化を社内説得に活用する
日本企業への適用
GX推進法・有価証券報告書でのサステナビリティ開示義務化により、日本企業のSBTi認定ニーズは高まっている。V2.0で「取締役会承認の移行計画」が必須化されたことは、日本の気候関連ガバナンス強化(コーポレートガバナンス・コード改訂への対応)とも整合する。Scope 3の自動車・鉄鋼等の下流排出量算定では、日本独自のインプット(国内物流の排出係数、J-クレジット等)を適切に組み込むことが重要。