実装ステップ
2026年7月、中国生態環境部(MEE)が18省庁と協力して「第15次五カ年気候変化計画(2026〜2030)」を発表した。これは中国初の「気候専用」五カ年計画であり、「排出ピーク前2030年・中立前2060年」実現に向けた主要政策手段と位置づけられている。Oxford大学Thomas Hale教授は「中国が気候ガバナンスを単に応じるのではなく主導・形成する姿勢への大きな転換」と評している。
主要数値目標
| 指標 | 目標 |
|---|---|
| 炭素排出原単位(GDP当たりCO2) | 5年間で17%削減 |
| 製品カーボン原単位(ETS対象産業) | 製品単位当たり3%削減 |
| 非CO2 GHG削減容量 | 2030年までに3,000万トンCO2e |
| 炭素中立目標 | 2060年以前 |
非CO2 GHGへの拡大:実装上の注意点
計画は初めて非CO2温室効果ガスの具体的削減目標を設けた。主要対象:
- メタン(CH4):中国の非CO2 GHGの最大排出源(炭鉱換気ガス・農業・廃棄物)。炭鉱メタン活用プロジェクトだけで2030年までに約2,000万トンCO2e削減が可能と試算。現在は約450万トンCO2e/年にとどまる
- HFC(フロン類):HFC破壊技術・触媒処理による削減を規定。冷蔵・空調設備の代替冷媒転換が加速する見通し
- N2O(亜酸化窒素):農業・化学プロセスへの触媒処理規制
- SF6(六フッ化硫黄):電力設備での回収・代替を指定
中国カーボン市場(ETS)の拡大
- 現在:発電部門のみ対象
- 計画期間:対象業種の順次拡大(鉄鋼・化学・建材等)
- 国際化:EUブラジルとの「準拠カーボン市場連携コアリション」参加(2026年9月に作業計画採択予定)
- CCER(中国認証削減クレジット)の拡大:炭鉱メタン・換気空気メタン(VAM)向け新方法論を追加
使うツール・標準
| ツール | 用途 |
|---|---|
| GHGプロトコル(中国版) | 国内企業のScope1/2算定基準 |
| CCER方法論 | 炭素クレジット創出の根拠——炭鉱メタン・再エネが主対象 |
| ISSB S2 | 中国当局がISSBとの整合を推進、日系企業との共通言語 |
| China Certified Emission Reduction | 自主炭素クレジット市場の主要商品 |
日系企業が対応すべき3つの優先事項
1. サプライチェーン排出量(Scope3 Category 1)の再算定 中国拠点の製造委託先・調達先がETS拡大の影響を受け、製品カーボンフットプリントが変わる。日本の「炭素国境調整措置(CBAM類似)」への備えも含め、2027年までにサプライヤー別の排出量データ取得体制を整備する。
2. HFC転換計画の前倒し 中国製造拠点で使用する冷凍・空調設備のHFC種別を把握し、低GWP代替冷媒への転換スケジュールを策定。中国での規制強化は日系製造業の操業コストに直接影響する。
3. 中国カーボン市場の動向把握 ETS対象業種拡大が確定した段階で、中国拠点でのカーボンコストを事業計画に組み込む。CCER(任意クレジット)への投資でコンプライアンスコストを低減する選択肢も検討する。
成功のポイント
- 炭素原単位の目標は絶対量でなく「強度」目標——事業拡大を前提にしても原単位17%削減は達成可能な設計。絶対量削減と混同しないこと
- メタン削減は新たなCCER機会——中国では炭鉱・農業・廃棄物分野のメタン削減プロジェクトが新たにCCER適格となり、クレジット収益化の機会が生まれている
- 国際標準との整合を先取りすること——中国が推進するISSB整合・グローバルカーボン市場参加は、日本・EU・米国の開示要件との「共通言語」化を意味する