研究の概要

太陽光・風力などの再生可能エネルギーが主力電源となった「インバーター主体電力システム(IBR-Dominated Power Systems)」では、従来の同期発電機中心の系統とは根本的に異なる運用上の課題が生じる。本研究は、IBRが支配的な電力系統における「セキュリティ制約付き運用」を、静的セキュリティ対動的セキュリティ、予防的対策対事後是正対策という2軸で整理し、統一的な枠組みを提示する。

インバーターベースのリソースは、従来の発電機とは異なりソフトウェア制御による応答特性を持つ。これにより運用の自由度は増す一方、動的な挙動や制御設定への依存が増大し、系統の安全性評価が複雑になる。本論文は既存研究を体系化し、IBR時代の電力系統運用設計に向けた包括的な視点を提供する。

主な発見・成果

  • IBRの能力は系統の実行可能領域を拡大し、セキュリティ制約を緩和できる。つまり、適切に活用すれば運用コスト削減と安全性向上の両立が可能となる。
  • ただし、その能力が実際に運用に活かせるかどうかは、複数の定式化にまたがる「共有制約・共有能力」の構造によって決まる。IBRが能力を持っていても、他の制約や定式化との整合性がなければ運用上の恩恵は得られない。
  • 予防的スケジューリングは従来の静的な「事故後実行可能性」から動的セキュリティへと拡張されており、事後是正運用も平衡点ベースから軌跡ベースの制御へと進化している。
  • 今後の研究課題として、IBR能力の特性化・定量化、合同スケジューリング手法、スケーラブルな計算枠組みの開発が挙げられる。

実務への応用

再生可能エネルギー大量導入期にある日本の電力系統運用に直接関係する知見。 日本でも2030年に再エネ比率36〜38%を目標とする中、インバーター接続機器の増加に対応した系統運用の枠組み更新が急務となっている。本論文の整理は、電力会社・送電事業者・アグリゲーターが「どのような観点でIBRの能力を系統運用に組み込むか」を考える際の体系的な参照点となる。特に需要応答・蓄電池・VPPを含む柔軟性リソースの調整制御設計において、静的・動的セキュリティを統合した設計思想の重要性が増している。