概要

本稿は、企業のサステナビリティ推進室に届く「十月の質問票」を手がかりに、非財務情報がどのように作られ、外部へ伝達されるのかを描く。開示された数字は、単独の部署や担当者がその場で生み出すものではなく、社内外の複数の情報源、依頼、確認、集計といった連鎖の上に成り立っている。特にScope 3では、自社の直接管理外にある取引先やサプライチェーンのデータを扱うため、数値の根拠、責任の所在、検証可能性が複雑になりやすい。投資家や格付会社が受け取る数字の背後にある作成過程を、質問票を送る側・受け取る側の双方の視点から捉え直す内容である。

ポイント

  • サステナビリティ情報は、質問票への回答や社内調整など、見えにくい実務プロセスを経て作成される。
  • 投資家・格付会社が見る開示数値には、収集元や算定方法、確認手続きなどの「証拠連鎖」が存在する。
  • Scope 3はバリューチェーン上の情報に依存するため、自社だけではデータの品質や完全性を担保しにくい。
  • 開示を読む側も、数字そのものだけでなく、誰が、何を根拠に、どのような依頼と集計を経て作ったかを確認する必要がある。
  • 質問票への対応は単なる回答作業ではなく、非財務情報の信頼性を左右するデータガバナンスの一部である。

実務への示唆

Scope 3の算定・開示では、数値の提出だけでなく、データの出所、算定前提、推計の有無、確認者を記録し、後から追跡できる状態にしておくことが重要である。質問票を受ける担当者は、回答期限に追われるだけでなく、部門間・取引先間の証拠連鎖を可視化し、継続的に改善できる仕組みとして運用したい。

出典

「証拠なき非財務情報」(5)Scope 3という証拠連鎖の難題