研究の概要

Nature Energy誌に掲載されたJieyi Luら(プリンストン大学)の研究では、米国のEVバッテリーの原材料需給ギャップを定量化し、国内生産拡大・需要側対策・国際調達の組み合わせによる対処戦略を評価した。2035年の米国政府目標(乗用車の電動化率)に向けた現実的なサプライチェーン戦略を示す政策的インプリケーションが大きい論文。

主な発見・成果

  • 国内生産拡大だけでは2035年需要を満たせない:サプライチェーン全段階(採掘→精製→セル製造)への国内投資と需要側戦略を組み合わせても、2035年の推定需要には届かない
  • 需要側戦略が重要な補完的役割:バッテリー搭載量の削減(走行距離要件の最適化)、シェアリング・V2G(Vehicle-to-Grid)活用によるフリート利用率向上が実質的な需要低減に貢献
  • 国際調達の継続が不可欠:国内生産+需要側対策でも不足分は残り、同盟国からの安定調達ルート(FTAパートナー国からのリチウム・ニッケル・コバルト)を維持することが現実的
  • サプライチェーン全段階への投資:採掘→精製→セル製造→モジュール組立の各段階で並行投資が必要であり、一段階への集中投資ではボトルネックが移動するだけ

実務への応用

自動車メーカー・電池メーカー・素材調達担当者・政策立案者への示唆:①EV転換計画において原材料リスク(リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン)の調達先多様化は2025年時点で既に緊急課題;②バッテリー容量設計においては最大航続距離より「80%のユースケースを満たす最小容量」の発想が資源効率とコスト競争力の両立につながる;③Scope 3排出量の算定においてもバッテリー原材料の採掘・精製段階の排出係数は地域・工程により大きく異なるため、調達先の精査がGHG削減に直結する。