概要

プロクター・ギャンブル(P&G)は、ボウンティ(ペーパータオル)・チャーミン(トイレットペーパー)など紙製品事業のサプライチェーンを持続可能にするため、森林学修士号・12年の現場経験を持つ専門家(フォレスター)を社内に採用した。「2030年までに木材パルプ調達の100%をFSC認証材に転換する」という目標に向け、現時点で86%を達成している。IKEAやキンバリー・クラークも同様に社内フォレスターを配置しており、紙・木材・バイオマス調達を持つ製造業全般に適用可能な実装モデルとなっている。日本企業においても、紙・包材・木質建材・バイオマス燃料のサプライチェーンでTNFD(自然関連財務情報開示)や生物多様性目標(GBF/30by30)への対応が急務となるなか、このアプローチは直接的な参考になる。

実装ステップ

ステップ1: 木材・パルプ調達の現状マッピングと認証ギャップ分析を行う

  • 原材料調達リスト(木材・パルプ・紙・包材)を全品目洗い出し、認証材(FSC/PEFC)比率と非認証材比率を可視化する
  • 非認証調達先ごとに認証取得の可否・コスト・タイムラインを調査する
  • 認証取得が困難なサプライヤーについて代替調達先の選定基準を設定する

ステップ2: 専門知識を社内に内製化する(または外部パートナーと連携する)

  • 木材・農業系調達に専門性がある場合は社内フォレスター・農業技術者の採用を検討する
  • 採用が難しい場合はFSC認証コンサルタント・WWFジャパン・地域の森林組合と連携し、社外知見を定常的に活用できる体制を構築する
  • 専門人材の役割を「監査対応」だけでなく「サプライヤーへの技術支援」に広げ、認証取得の伴走者として位置づける

ステップ3: サプライヤーへの教育プログラムと現場訪問を設計する

  • P&Gは年2回以上のサプライヤー現地訪問を実施し、FSC認証取得の価値と手順を直接教育している
  • 訪問時のアジェンダとして「認証コスト試算支援」「監査プロセスの模擬演習」「認証後の優先サプライヤー扱いの明示」を組み込む
  • 大規模サプライヤーだけでなく、中小・地方の素材調達先にも訪問対象を広げることが認証率向上の鍵となる

ステップ4: 調達契約にインセンティブ構造を埋め込む

  • FSC認証取得サプライヤーに「優先発注枠」「長期契約」「価格プレミアム」のいずれか(または複合)を提供する条件を調達約款に明記する
  • 未認証サプライヤーには認証取得へのロードマップ提出を年次要件とし、期日を設けて段階的にフェーズアウトする
  • 調達部門のKPIに「認証材比率」を組み込み、購買担当者の評価指標として定着させる

ステップ5: 進捗をTNFD・生物多様性開示に連動させて外部報告する

  • FSC認証達成率を四半期ごとに計測し、年次サステナビリティレポートで定量的に開示する
  • TNFDのLEAPアプローチ(位置情報の特定→依存関係の評価→影響の評価→優先順位付け)に基づき、主要調達地域の森林生態系への影響評価を実施する
  • GBF(昆明・モントリオール枠組)の「30by30」目標と自社の認証材調達目標の整合性を説明できる開示文を準備する

使うツール・標準

  • FSC(Forest Stewardship Council): 木材・紙の環境・社会・経済基準に基づく第三者認証
  • PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification): FSCと並ぶ主要な森林認証スキーム(日本のSGECはPEFC相互承認)
  • TNFD LEAPアプローチ: 自然関連リスクの位置情報ベース評価手法
  • GBF(昆明・モントリオール枠組)30by30: 生物多様性国際目標
  • Chain of Custody(CoC)認証: FSC認証材の流通経路を追跡する管理の連鎖認証

成功のポイント

  1. 現場の専門性が信頼を生む: 認証取得を要求するだけでなく、自社の専門家が現地に行って技術支援することで、サプライヤーの信頼と参加率が高まる
  2. インセンティブの具体性: 「優先発注」「長期契約」など、サプライヤーが認証コストを回収できる見通しを具体的に示さないと認証取得は進まない
  3. 段階目標の設定: P&Gの86%達成は一度に実現したのではなく、段階的なロードマップに基づく。未達部分の調達先を特定し、毎年改善計画を更新することが重要

日本企業への適用

日本国内では「SGEC(Sustainable Green Ecosystem Council)」がPEFC相互承認を受けており、国産材のFSC/PEFC認証取得率向上は政府の「森林・林業基本計画」の重点施策でもある。製紙・建材・家具・紙製パッケージを扱う企業は、TNFDの義務的開示が本格化する2026年度以降を見据えて、今から認証材比率の計測体制とサプライヤー支援プログラムを整備することが競争優位に直結する。特に輸出製品・海外投資家向け報告では、FSCを単独認証として求められるケースが多く、PEFC(SGEC)のみでは不十分な場合があることに留意すべきだ。