実装ステップ
Science Based Targets initiative(SBTi)のCEO David Kennedy氏らが2026年夏に中国・日本・韓国を訪問し、アジア企業のGX実装状況を調査した。アジアは世界GDPの3分の1以上、温室効果ガス排出量の半分以上を占める地域として、科学的根拠に基づく目標(SBT)設定の拡大が急務となっている。
1. 日本:世界最多の2,500社超がSBT取得済み
日本は現在、SBT認定企業数が世界最多の2,500社以上を誇る。環境省・東京都もSBTアプローチを支持しており、政府・企業・自治体の三層による推進体制が整っている。企業が評価するのは「Corporate Net-Zero Standard V2.0」の柔軟性——業種・規模別の複数の実施オプションが実務者の負担を軽減している。
2. 中国:国際市場アクセスと国内規制の両立
中国企業がSBT認定を追求する理由は、単なる気候コミットメント以上のものがある。① 輸出先(EU・米国)の取引要件への対応、② 国内カーボン市場との整合性確保、③ 小規模企業のデータ品質向上。SBTiは中国語翻訳リソースを提供しており、言語障壁の解消も進んでいる。
3. 韓国:第8位経済大国のGX競争力課題
韓国企業はISSBおよびKSDS(韓国サステナビリティ開示基準)との整合性を重視している。製造業の競争力維持と脱炭素の両立が主要課題であり、Steel・Chemical・Cementなどのカーボン集約産業では業種別ガイダンスの活用が重要。
使うツール・標準
- SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0:2024年公開・複数の実施パスを提供
- FLAG(Forest, Land and Agriculture)Standard V2:農業・食品企業向けの土地利用起因排出量の削減目標設定(V2開発中)
- ISSB / IFRS S2:気候関連財務情報開示との整合
- KSDS:韓国版サステナビリティ開示基準(2024年)
- CDP連携:SBT取得企業はCDPスコアリングで優遇されるケースが多い
成功のポイント
- 規制先読みで先行優位:EUのCBAM・CSRD、米国のScope3開示要件を先取りすることで、グローバルサプライチェーンでの取引継続力が高まる
- 業種別ガイダンスの活用:SBTiは鉄鋼・化学・金融・不動産など業種別の詳細実施ガイドを無償公開している
- 五年レビュー義務を計画に織り込む:SBT認定後5年ごとにレビューが必要——初回認定時から目標更新プロセスを設計しておくことが重要(2026年7月更新のMandatory Five-Year Review Guidanceを参照)
日本企業への適用
SBT認定数では世界をリードする日本だが、Scope3(バリューチェーン排出)の定量化・削減策では中国・韓国企業との競争が激化している。特にSBTiの「FLAG Standard」に対応する食品・農業・紙パルプ企業は、2025年以降の認定取得に向けて土地利用の排出量算定手順を整備する必要がある。脱炭素が「追加コスト」から「輸出競争力の源泉」へとシフトする中、SBT認定は単なるESGツールではなく戦略的必須要件になっている。