実装ステップ

米ウォルマートは2026年7月公表のFY2026 ESGレポートにて、SBTiが承認した新たなScope1+2排出削減目標「FY2031年までにFY2025年比28%削減」を発表した。前回目標(FY2026年までにFY2016年比35%削減)を未達成だったにもかかわらず、SBTiの「5年レビュー規定(Mandatory Five-Year Review Protocol)」を活用して正式に目標を更新・再認定取得した点が注目される。

SBTi 5年レビュー規定を使った目標更新プロセス

Step 1:現行目標の進捗レビュー(FY2026時点)

  • Scope1+2排出量:FY2016年比で24.6%の絶対削減を達成(目標は35%)
  • 排出量原単位:FY2016年比53.7%削減(エネルギー効率は大幅改善)
  • FY2026年の年間削減:前年比7.5%削減——これは単年で大きな進捗

Step 2:新ベースライン設定 SBTiの5年レビュー規定に基づき、FY2025をベースライン年度として設定。過去に戻って基準年を変更することで、事業成長(店舗数増加・輸送距離拡大等)の影響を適切に反映した目標設定が可能になる。

Step 3:削減達成施策の文書化 FY2026の7.5%削減を達成した主な施策:

  1. 冷媒排出量を20.7%削減(低GWP冷媒への転換+漏洩防止)
  2. 再生可能エネルギー・クリーンエネルギーの使用拡大

Step 4:新目標のSBTi提出・審査・認定 「FY2031年までにFY2025年比Scope1+2を28%削減」という目標がSBTiによる1.5℃整合の科学的根拠に基づく目標として認定された。

使うツール・標準

ツール内容
GHGプロトコル Scope1+2Scope1(自社消費)とScope2(調達電力)の算定基準
SBTi Corporate Net-Zero Standard1.5℃整合の科学的削減目標設定基準
SBTi Mandatory Five-Year Review Guidance(2026年7月改訂)5年ごとの義務レビューと目標更新手順書
低GWP冷媒(HFO系等)既存HFC冷媒からの転換対象

ウォルマートが直面した実装課題

ウォルマートが前回目標を未達成だった主因は以下の「外部ヘッドウィンド」:

  • 事業成長による店舗数・輸送距離の増大
  • 寒冷な気候による暖房需要増加
  • 技術の利用可能性とコストの制約

これらはウォルマート規模の企業でも制御困難であり、Scope1+2の「絶対削減目標」が事業拡大局面では非常に厳しい目標であることを示している。

成功のポイント

  1. 冷媒削減は最速のROIを持つ施策:冷蔵・空調設備の冷媒漏洩防止と低GWP転換は、投資対効果が高く先行すべき施策。ウォルマートはこれで20.7%削減を実現
  2. 原単位と絶対量を両方トラッキング:絶対量で未達でも原単位(排出強度)の改善を証明できれば、5年レビューでの目標更新の根拠になる
  3. 5年レビューを「失敗」ではなく「更新機会」として活用:SBTi規定上、5年以内に認定取得し、5年ごとに更新する——これは制度の想定内であり、柔軟に活用すべき

日本企業への適用

日本企業がSBT認定後に直面する最大の課題は、Scope2(調達電力)の削減余地が小さいことと、Scope1の工場排熱が削減困難なことだ。ウォルマート事例のように「冷媒転換(HFC→R32・HFO等)」「再エネ電力調達の拡大」を先行させ、5年レビューのタイミングで目標値の実態適合を図るアプローチが現実的。特に流通・食品・小売業では冷蔵チェーンのHFC漏洩がScope1の大きな比率を占めており、定期リーク検査と早期の低GWP転換が最優先の対策となる。