はじめに
2026年9月、マイクロソフトとデンマークの海運会社Nordenが、海運向け**ブック&クレーム(Book & Claim)**方式を使ったサステナブル燃料の排出削減クレジット購入パイロットを完了しました。3年間で約1万トンのCO2e(Scope3)を削減したこの仕組みは、輸送依存型のサプライチェーンを持つ日本企業にとって即応用可能なモデルです。
ブック&クレームとは何か
従来の脱炭素化では、自社の荷物を積んだ船にサステナブル燃料を使わせる必要がありました。しかし世界の海運ネットワークは複雑で、特定の荷物を特定の船に紐付けることは現実的ではありません。
ブック&クレームはこの問題を解決します:
- 書く(Book):海運会社がサステナブル燃料を使った航路で実際に削減した排出量を検証・登録
- 請求する(Claim):荷主企業がその排出削減クレジットを購入し、Scope3の削減としてカウント
物理的な燃料と実際の荷物を切り離すことで、どの荷主でも海運の脱炭素化に参加できるようになります。
パイロットの仕組み(マイクロソフト×Norden)
3ステップのプロセス
ステップ1:燃料の供給と認証 Nordenが指定航路でバイオ燃料を使用。RSB(持続可能なバイオマス・ラウンドテーブル)がその排出削減量を計測・認証します。NordenはRSBブック&クレームのトレーダー認証を最初に取得した海運会社。
ステップ2:クレジットの登録 RSBのレジストリに検証済みの排出削減量が登録されます。
ステップ3:購入と計上 マイクロソフトがRSBレジストリを通じてクレジットを購入。自社の荷物がNordenの船に乗っているかどうかに関わらず、3年間で約1万トンのCO2eをScope3削減として計上。
実装ステップ(日本企業が今すぐ始められること)
ステップ1:自社の海運Scope3の把握
- GHGプロトコル Scope3 カテゴリ4(上流の輸送・配送)とカテゴリ9(下流の輸送・配送)を算定
- 主要な海運ルート・海運会社を特定
ステップ2:対応可能な海運会社の調査
- RSBブック&クレーム認証取得済みの海運会社を特定
- 日本の主要海運3社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)のサステナブル燃料プログラムを確認
ステップ3:パイロット契約の設計
- 年間削減目標量(トンCO2e)を設定し、必要なクレジット量を計算
- RSB等の認証機関を通じたクレジット購入の条件を海運会社と交渉
ステップ4:GHG報告への組み込み
- Scope3カテゴリ別の削減量として開示
- 「マーケット・ベース」か「ロケーション・ベース」かを明確に区別して報告
- SBTiのScope3目標に対するカウント可否を事前確認
使うツール・標準
- RSB(持続可能なバイオマス・ラウンドテーブル):ブック&クレームの認証・レジストリ
- GHGプロトコル Scope3標準:カテゴリ4/9の算定方法
- IMO GHG戦略:2050年ゼロエミッション目標に向けた国際海運の規制枠組み
- FuelEU Maritime:EU域内航路向けの燃料規制(間接的に日本企業に影響)
成功のポイント
- 「自分の船」に乗せなくてよい:ブック&クレームの最大の革新点。複雑なサプライチェーンでも参加可能
- 認証機関の選択が信頼性の鍵:RSB以外にも認証機関が存在するが、方法論の品質に差がある
- IMO規制の強化で需要急増が予測:早期に海運会社とパートナーシップを結ぶことが有利
日本企業への適用
- 輸出入企業はScope3カテゴリ4・9が排出量の大きな割合を占めるケースが多く、海運の脱炭素化は重要
- GX推進計画において海運脱炭素は「困難なセクター(Hard-to-Abate)」として対応が遅れがちだが、ブック&クレームは今すぐ開始できる現実的な手段
- TCFD・ISSB開示での「Scope3削減の実績」として計上可能
