実装ステップ
1. 農業由来Scope 3排出の特定と削減目標の設定
GSKはSBTi認定の「残余排出」枠として農業由来のScope 3排出を相殺するCDR調達を決定。食品・農業・製薬などのサプライチェーンに農業が含まれる企業は、Scope 3 カテゴリ1(購入した農産物)の排出量算定から着手。
2. 再生農業の実装対象農地の特定
インドのパンジャブ・ハリヤナ両州の5万ヘクタールの農地でプロジェクトを実施。これらの地域では:
- インド全土で年間1億トン超の残留農業廃棄物(稲わら等)が野焼きされており、CO2・PM2.5の大規模排出源となっている
- 農家の収入水準が低く、代替農業手法への移行インセンティブが不足
- この「課題」がカーボンクレジット収益で解決できる「ダブルインパクト」機会として機能
3. 農業実践の変革(4つの主要手法)
手法1: 残留農業廃棄物の土壌混和
- 稲わらの野焼きを廃止し、残留物を土壌に混和(炭素固定)
- PM2.5排出を大幅削減(第1モニタリング期間で4,574トン削減)
手法2: 直播水稲(DSR)への転換
- 従来の移植水稲(湛水)から「直播」への切り替え
- 水使用量を大幅削減(約595億リットル削減を確認)
- メタン排出も削減(湛水田からのCH4が主要排出源)
手法3: 不耕起・減耕起栽培
- 土壌攪乱を最小化し、土壌炭素を維持・蓄積
手法4: 農家への機械・資金支援
- 代替農業機械への補助アクセスを提供
- カーボンクレジット収益を農家に分配(収入12〜16%増加を確認)
4. MRV(計測・報告・検証)体制の構築
Varaha(CDRデベロッパー)が担当するMRV:
- 計測: 衛星データ・現地サンプリングによる土壌炭素増加量の定量化
- 報告: 第三者検証機関への年次報告
- 検証: 独立した外部検証(GoldStandard・VCS等のフレームワーク準拠)
- 第1モニタリング期間:4.2万ヘクタールをカバー済み
5. CDR購入契約の構造
- 購入数量: 年間約10万トン(2028〜2033年)
- 契約期間: 8年間
- 総除去量: 50万トン
- 用途: GSKの残余排出の約7%を相殺
使うツール・標準
- Verra VCS(Verified Carbon Standard): 農業系カーボンクレジットの主要認証フレームワーク
- GHGプロトコル Scope 3 農業指針: 農業排出量算定の方法論
- ICVCM コア炭素原則: 高品質クレジットの要件(追加性・永続性・測定可能性)
- SBTi FLAG(食料・農業・土地利用)ガイダンス: 農業Scope 3削減目標の設定
成功のポイント
- 農家の経済メリットとの設計一致: カーボン収益が農家収入向上につながることで持続的な農業変革が担保される
- 空気質改善という即時の社会的共便益: 野焼きによる大気汚染削減は地域社会への明確なコベネフィット
- 大規模展開可能性: インドでは年間1億トンの農業廃棄物燃焼が続いており、スケールアップの余地が大きい
日本企業への適用
アジア・インドの農業サプライチェーンを持つ日本企業(食品・農薬・農業機械等)への示唆:
- Scope 3 カテゴリ1(農業由来)の排出量算定と削減ポテンシャルの評価
- SBTi FLAGガイダンスに基づく農業Scope 3削減目標の設定
- インド・東南アジアの農業CDRプロジェクト(Varaha・Terrasos等)への長期購入契約の検討
- 農業機械メーカーは不耕起・直播機械の普及がCDRクレジット創出と連動する新規事業モデルとして評価
