研究の概要
海運の脱炭素化には多様な代替燃料候補(アンモニア・メタノール・水素・バイオ燃料・合成燃料)が存在するが、それぞれの普及速度は規制環境に大きく依存する。本研究は、IMOの世界海運規制(燃料強度基準+課税の組み合わせ)が各代替燃料の選択ポートフォリオにどう影響するかを、全ライフサイクル環境影響とコストの両面から定量的に評価する大規模モデリング研究である。
モデルは2050年まで10年刻みの燃料移行シナリオを複数検討し、GHG排出(CO2換算)、窒素酸化物・硫黄酸化物排出、燃料コスト、インフラ整備コストを統合的に評価する。規制シナリオは「現状維持」「IMO中間目標達成」「ネットゼロ達成」の3段階を設定している。
主な発見・成果
燃料強度基準と課税を組み合わせたシナリオで、アンモニアが2040年代以降に急速に市場シェアを拡大し、2050年ネットゼロ目標達成に最も貢献することが示された。一方、課税のみのシナリオではLNGが2030〜2040年代の主力燃料として定着し、その後のゼロカーボン燃料への移行コストが大幅に増加する。ライフサイクル評価では、グリーン電力由来のアンモニアがWtWでほぼゼロエミッションを達成できる一方、現在の製造コストは重油の約4〜6倍であり、炭素課金水準と再生可能エネルギーコストの今後の推移が普及の鍵を握る。
実務への応用
海運事業者・船主・造船会社が長期燃料戦略を策定する際の定量的シナリオ比較として活用できる。特にアンモニア燃料船への投資タイミングと、LNG船への追加投資を避けるべき「締め切り時点」の見極めに使える。また、港湾当局・エネルギーインフラ事業者がアンモニア燃料供給インフラの整備計画を立案する際のシナリオ根拠にもなる。