研究の概要
国際海事機関(IMO)は2023年に改訂されたGHG削減戦略でネットゼロ目標を掲げ、2050年頃までにゼロエミッション実現を目指している。しかし、海運脱炭素化の政策設計は複雑で、燃料のウェルトゥウェイク(Well-to-Wake: WtW)ライフサイクル排出を適切に反映した規制が必要とされている。本研究は、IMOのネットゼロフレームワーク(価格メカニズム+燃料強度基準の組み合わせ)がライフサイクル視点でどう機能するかを分析し、低気候影響燃料の採用促進に向けた政策設計の整合性を評価する。
アンモニア・メタノール・水素・LNG・バイオ燃料など主要代替燃料のWtW排出係数、現在のコスト、技術成熟度を比較し、IMO規制が各燃料の競争力にどう影響するかをシナリオ分析する。
主な発見・成果
価格メカニズム(炭素課徴金相当)と燃料強度基準(FuelEU Maritime類似)を組み合わせた規制設計が、アンモニアや再生可能メタノールなどのゼロカーボン燃料への移行を最も効果的に加速させることが示された。価格メカニズムのみでは化石燃料LNGの「橋渡し燃料」的な普及を促してしまい、長期的なロックインリスクが高まる。また、WtWで評価すると、一見クリーンに見えるブルーアンモニア(化石水素由来)の排出量が意外に大きく、グリーンアンモニア(再生可能電力由来)との差別化が政策設計上重要であることが明らかになった。
実務への応用
日本の海運会社・造船業者・港湾事業者がIMO規制対応のロードマップを策定する際、WtWライフサイクル評価の視点から燃料選択を評価するフレームワークとして活用できる。特に代替燃料のサプライチェーン構築を検討する際、政策変化リスクも含めた投資判断の根拠として使える。LNG二元燃料船への移行を検討中の事業者は、本研究が示す「LNGロックインリスク」を投資判断に組み込む必要がある。