やったこと

Building Decarbonization Coalition(BDC)が2026年4月7日に公開した「Momentum Q1 | 2026」(2026年第1四半期建物脱炭素動向レポート)を精読し、米国の建物脱炭素化における市場変化・政策動向・労働力問題の要点を整理した。

具体的な手順・工夫

ヒートポンプ市場の2つのマイルストーン達成

  1. 4年連続でガス暖房炉を上回る出荷: 2025年もヒートポンプがガス暖房炉の年間出荷台数を超え、この傾向が定着しつつある。
  2. 初のエアコン超え(2025年9月): ヒートポンプの月間出荷がエアコンを上回る月が初めて発生。冷暖房一体設備としての優位性が市場に浸透してきた。

ヒートポンプはガス設備と比較して3〜5倍のエネルギー効率を持ち、長期的なビルの脱炭素化に不可欠な設備として位置付けられる。

ガスインフラコストと料金の問題

  • 2010年以降、ガス配電インフラへの支出が3倍以上に増加
  • 顧客は2010年以前の投資水準が維持されていれば1,300億ドル(世帯当たり1,723ドル)節約できた
  • 現在、一般家庭のガス料金の2/3がガスそのものではなく配送・インフラコストに充てられている
  • 2025年にはガス料金が電力料金の60%速く上昇、インフレ率の4倍ペースで上昇
  • 2024年に4世帯に1世帯が光熱費を払うために食料や薬代を削減したと報告

熱エネルギー労働力(Thermal Workforce)の移行戦略 BDCは「thermal workforce」概念を提唱:ガス設備作業員・電気工事士・配管工・HVAC技術者など約450万人の労働者が冷暖房サービスを支えている。化石燃料系から再エネ系への移行を対立ではなく連続体として捉え、移行期に両方のシステムに対応できる人材育成が重要。

コロラド Contractor Hub(2026年1月) デンバー都市圏でヒートポンプ業者向けのデジタルプラットフォームを立ち上げ。顧客リード・研修補助・インセンティブ・許可申請ガイドを集約し、電化工事業者の事業拡大を支援。AI機能でインセンティブ・建築基準・ライセンス要件に回答。

州レベルの電化推進策

  • ニュージャージー:ガス料金を一時凍結
  • カリフォルニア:IOU規模の電化パイロットを初開始・151か所の地区規模脱炭素パイロットゾーンを指定
  • マサチューセッツ:世帯エネルギー負担に連動した電気料金割引制度・熱ネットワークへの規制的経路を整備
  • ニューヨーク:2030年まで建物電化の長期資金を確保

得られた結果

米国の建物脱炭素市場はヒートポンプ優位が定着し始めており、市場インフラ(業者・トレーニング・インセンティブ)の整備が次の障壁になっている。ガスインフラへの過剰投資の可視化が政策議論を後押しし、複数州で新規ガス拡張の撤退が進んでいる。

他社が参考にすべき点

  • 建物電化の「業者不足」問題は日本にも共通。電化設備のインストール業者の育成・認定を早期に体制整備することが脱炭素加速のボトルネック。コロラドの Contractor Hub モデルは国内でも参考になる。
  • ガスインフラのライフサイクルコストを顕在化すると経営判断が変わる。「ガスは安い」という固定観念が2/3インフラコスト問題で覆されているように、国内の工場・ビルでも熱源のLCCを再試算すべき。
  • 市場が自然に動いてもボトルネックが変わるだけ。ヒートポンプが売れても業者不足・資金調達・技術習得が次の課題になるため、先行してサプライチェーンを整備した企業が有利。